退去強制令書が届いたら?オーバーステイからの解決策と専門家の役割
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日本での生活基盤が築かれ、家族や仕事、友人に囲まれた穏やかな日々。そんな日常が、「退去強制令書」という一枚の通知によって、ある日突然、崩れ去る危機に瀕することがあります。オーバーステイ(不法残留)やその他の理由で入管法に違反した状態となり、日本から強制的に退去させられるという現実は、ご本人にとってもご家族にとっても、計り知れないほどの不安と恐怖をもたらすことでしょう。
「もう日本にはいられないのか」「家族と離れ離れになってしまうのか」と、絶望的な気持ちになるかもしれません。しかし、退去強制令書が出されたからといって、必ずしもすべての道が閉ざされたわけではありません。状況によっては、日本に残り続けるための「在留特別許可」という道が開かれる可能性があります。
ご自身やご家族が直面している困難な状況を乗り越えるためには、正確な知識を持ち、迅速かつ適切に行動することが何よりも重要です。
こちらの記事では、退去強制令書が出された場合の具体的な対処法、そしてその過程で行政書士が果たす重要な役割について詳しく見ていきたいと思います。
― 目次 ―
退去強制とは?その深刻さと手続きの流れ
「退去強制」という言葉には、非常に重く、厳しい響きがあります。この手続きが開始されると、日本での生活を根底から覆される事態になりかねません。まずは、退去強制がどのようなもので、いかなる流れで進んでいくのかを正確に理解することが、冷静な第一歩を踏み出すために不可欠です。最悪の事態を避けるためにも、まずは敵を知ることから始めましょう。
そもそも退去強制とは?
退去強制とは、入管法に定められた特定の理由(退去強制事由)に該当する外国人を、その意思にかかわらず日本から強制的に退去させる行政処分です。これは、日本の安全や利益を守るための制度であり、非常に強力な効力を持ちます。
最も一般的な原因は「オーバーステイ」です。これは、許可された在留期間を超えて日本に滞在し続ける状態を指します。他にも、不法入国、資格外活動(許可なく収入を得る活動を行うこと)違反、犯罪行為なども退去強制の対象となります。
一度退去強制されると、原則として最低5年間(場合によっては10年または永久に)日本への上陸が許可されません。これは「上陸拒否期間」と呼ばれ、この期間中はたとえ日本人と結婚したとしても、観光目的であっても、日本に入国することは極めて困難になります。築き上げてきた生活のすべてを失う、非常に重い処分なのです。
退去強制の手続きはどのように進むのか
退去強制の手続きは、ある日突然始まります。そのプロセスはいくつかの段階に分かれており、各段階で適切な対応を取ることが重要です。
- 1. 違反調査
地方出入国在留管理局の入国警備官が、入管法違反の疑いがある外国人に対して調査を行います。これは、出頭要請による任意調査の場合もあれば、警察に逮捕されたり、入管施設への通報によって発覚したりするケースもあります。
- 2. 収容
調査の結果、違反の疑いが強いと判断され、かつ逃亡の恐れがあるとされると、入国者収容所(通称:入管)に身柄を収容されることがあります。収容は、身体の自由を奪う非常に厳しい措置です。この段階で「仮放免」を申請し、一時的に身柄の解放を求めることも可能です。
- 3. 違反審査
入国審査官が、本当に退去強制事由に該当するかどうかを審査します。この際、本人は自身の言い分を主張し、有利な証拠を提出することができます。
- 4. 口頭審理
入国審査官の判定に不服がある場合、特別審理官による口頭審理を請求できます。これは、裁判における第二審のような位置づけで、改めて主張を述べる機会が与えられます。
- 5. 法務大臣裁決
口頭審理の判定にも不服がある場合、最終的な判断を求めて法務大臣に異議を申し出ることができます。この法務大臣の裁決の過程で、後述する「在留特別許可」が検討されます。
- 6. 退去強制令書の発付
法務大臣が異議の申し出に理由がないと判断した場合、退去強制令書が発付されます。この令書が発付されると、原則として速やかに送還手続きが取られることになります。
この一連の流れは、精神的にも肉体的にも大きな負担を伴います。特に収容された場合、外部との連絡も制限され、孤独と不安の中で戦わなければなりません。
希望の光「在留特別許可」とは?許可を得るための重要ポイント
退去強制の手続きが進み、絶望的な状況に思える中でも、日本に残り続けられる可能性がゼロになるわけではありません。それが「在留特別許可(在特)」です。これは、法務大臣の特別な裁量によって与えられる、まさに最後の希望ともいえる許可です。ここでは、在留特別許可がどのようなもので、許可を得るためには何が重要になるのかを掘り下げていきます。
在留特別許可(在特)の概要
在留特別許可とは、本来であれば退去強制されるべき外国人に対し、法務大臣がその裁量により、特別に在留を許可する制度です。これは、法律違反の事実は認めつつも、人道的な配慮や日本社会との結びつきなどを総合的に考慮し、例外的に与えられるものです。
在留特別許可が認められれば、退去強制を免れ、正規の在留資格(多くは「定住者」など)が与えられます。これにより、再び日本で安定した生活を送ることが可能になります。
重要なのは、在留特別許可は「申請」して得るものではなく、退去強制手続きの過程で、法務大臣が職権で行う「処分」であるという点です。したがって、自ら積極的に許可すべき事情を主張し、証拠を提出していく必要があります。
許可・不許可を判断する考慮要素
法務大臣は、どのような事情を考慮して在留特別許可の判断を下すのでしょうか。出入国在留管理庁が公表しているガイドラインには、考慮すべき事情が「積極要素(プラス要素)」と「消極要素(マイナス要素)」として例示されています。
【積極要素(許可の方向に働く事情)】
- 日本人または特別永住者との間に生まれた子を扶養している場合
- 日本人または特別永住者と婚姻が法的に成立している場合(偽装結婚ではないこと)
- 難病を患っており、日本での治療が必要な場合
- 日本社会への定着性が高く、他に生計を立てる手段がない場合(在留期間が長い、学歴、職歴など)
- 自ら入管に出頭した場合(自主出頭)
【消極要素(不許可の方向に働く事情)】
- 重大な犯罪で実刑に処せられたことがある場合
- 出入国管理行政の根幹に関わるような違反(密航、偽造パスポートでの入国など)がある場合
- 過去に退去強制されたことがある場合
- 素行が不良である場合(交通違反の多発、納税義務の不履行など)
これらの要素を総合的に比較衡量し、個別の事案ごとに判断が下されます。特に、日本人との身分関係(結婚や子の存在)は非常に重要な積極要素となります。
諦めなかった家族の絆
フィリピン出身のAさんは、日本人男性と結婚し、幸せな家庭を築いていました。しかし、過去にオーバーステイしていた期間があったことが発覚し、退去強制手続きが進められることになりました。Aさんと夫は絶望しましたが、行政書士に相談。行政書士は、二人の婚姻が真摯なものであること、Aさんが地域社会に溶け込み、ボランティア活動にも参加していること、そして何より、夫がAさんの精神的な支えなしには生活できない状況にあることなどを詳細にまとめた意見書と膨大な証拠資料を作成しました。
法務大臣への異議申し立ての結果、これらの事情が総合的に考慮され、Aさんには「在留特別許可」が与えられました。諦めずに専門家と協力し、家族の絆の強さを証明したことが、奇跡的な結果に繋がったのです。
なぜ専門家が必要なのか?行政書士に相談する5つのメリット
退去強制という危機的な状況において、「自分一人で何とかしよう」と考えるのは非常に危険です。手続きは複雑で、精神的な負担も大きいからです。このような時こそ、入管業務を専門とする行政書士のような専門家のサポートが不可欠です。なぜ専門家に依頼すべきなのか、その具体的なメリットを見ていきましょう。
1. 的確な状況分析と最善策の提案
まず、専門家はご本人やご家族から詳しく事情をヒアリングし、現在の状況を法的な観点から正確に分析します。オーバーステイに至った経緯、家族構成、仕事の状況、日本での生活歴など、あらゆる情報を整理し、在留特別許可の可能性がどの程度あるのかを冷静に判断します。そして、許可を得るために何を、どのタイミングで、どのように主張すべきかという最善の戦略を立てることができます。
2. 有利な証拠の収集と説得力のある書類作成
在留特別許可を得るためには、「日本に在留すべき理由」を客観的な証拠に基づいて証明する必要があります。しかし、何が有利な証拠となり得るのかを一般の方が判断するのは困難です。行政書士は、これまでの経験から有効な証拠(例:家族写真、手紙、地域の活動記録、嘆願書など)を的確にアドバイスし、収集をサポートします。さらに、それらの証拠を基に、法務大臣を説得するための論理的で説得力のある理由書や意見書を作成します。この書類の質が、結果を大きく左右すると言っても過言ではありません。
3. 精神的な負担の軽減
退去強制手続きは、先が見えない不安との戦いです。特に収容されてしまった場合、その精神的ストレスは計り知れません。専門家が代理人となることで、入管との複雑なやり取りを任せることができ、ご本人やご家族は精神的な負担を大幅に軽減できます。専門家が「ついている」という安心感は、この困難な時期を乗り越えるための大きな支えとなります。
4. 入国管理局との円滑なコミュニケーション
入管業務の専門家は、日頃から入国管理局の担当官とやり取りをしています。そのため、手続きの流れや審査のポイント、担当官が重視する点などを熟知しています。専門家が間に入ることで、当局とのコミュニケーションが円滑に進み、誤解や不信感を与えることなく、こちらの主張を的確に伝えることができます。
5. 仮放免許可申請など関連手続きへの対応
収容されてしまった場合、まずは身柄の解放を目指す「仮放免許可申請」が重要になります。この申請にも、身元保証人の確保や保証金の準備、逃亡の恐れがないことの立証など、専門的な知識が必要です。行政書士は、在留特別許可の申し立てと並行して、こうした関連手続きにも迅速に対応することが可能です。
退去強制に関するよくある質問(Q&A)
退去強制や在留特別許可に関しては、多くの方が同じような疑問や不安を抱えています。ここでは、特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。ご自身の状況と照らし合わせながら、参考にしてください。
Q1. オーバーステイで自ら出頭(自主出頭)すれば、必ず許してもらえますか?
A1. 自主出頭は、在留特別許可の審査において非常に有利な事情(積極要素)として考慮されます。逃亡や摘発を待つのではなく、自ら過ちを認めて出頭する姿勢は高く評価されます。しかし、自主出頭したからといって、必ず在留特別許可が得られたり、収容を免れたりするわけではありません。
最終的には、日本人との婚姻関係の有無や日本での生活状況など、他の要素と総合的に判断されます。ただし、「出国命令制度」の対象となれば、収容されずに、かつ上陸拒否期間が1年間に短縮された上で出国できる可能性があります。まずは専門家に相談し、ご自身の状況で自主出頭することが最善策か否かを判断してもらうことが重要です。
Q2. 弁護士と行政書士、どちらに相談すべきですか?
A2. 弁護士と行政書士はどちらも法律の専門家ですが、対応できる業務範囲に違いがあります。
- 行政書士:書類作成のプロフェッショナルです。在留特別許可を求める理由書や意見書、証拠資料の収集・作成、入管への提出など、申請取次行政書士であれば、本人に代わって手続きを進めることができます。
- 弁護士:行政書士の業務に加え、本人の代理人として入管の審理に同席したり、万が一、退去強制令書が発付された後に、その処分の取り消しを求めて裁判を起こしたりすることができます。
入管への書類作成や交渉段階では、入管業務を専門とする行政書士が豊富な経験と実績を持っていることが多いです。費用面でも行政書士の方が抑えられる傾向にあります。まずは入管専門の行政書士に相談し、事案が複雑で訴訟の可能性も視野に入れる必要がある場合に、弁護士との連携を検討するのが効率的です。
Q3. 専門家に依頼する費用はどのくらいかかりますか?
A3. 費用は事案の難易度や、収容されているか否か、仮放免申請を行うかなど、依頼する業務の範囲によって大きく異なります。一般的に、着手金と成功報酬の体系をとっている事務所が多いです。
決して安い金額ではありませんが、退去強制処分を受けて日本での生活を全て失うリスクを考えれば、専門家への投資は将来のための重要な経費と考えるべきです。多くの事務所では初回相談を無料または低価格で実施していますので、まずは複数の事務所に問い合わせ、費用体系や業務内容について説明を受け、信頼できる専門家を見つけることをお勧めします。
まとめ
退去強制令書は、外国人にとって最も重い行政処分の一つであり、その通知を受けた時の衝撃と不安は計り知れません。しかし、この記事で見てきたように、道が完全に閉ざされたわけではなく、「在留特別許可」という希望の光が存在します。
在留特別許可を得るためには、ご自身の状況を正確に把握し、日本に在留すべき人道的理由や社会との結びつきを、客観的な証拠に基づいて説得力をもって主張し続ける必要があります。そのプロセスは複雑で、精神的にも大きな負担がかかります。
このような困難な状況だからこそ、一人で抱え込まずに、入管業務に精通した行政書士などの専門家に速やかに相談することが極めて重要です。専門家は、法的な知識と豊富な経験を基に、最善の解決策を提示し、複雑な手続きを代行し、そして何よりも、不安なご本人とご家族に寄り添う心強いパートナーとなってくれます。
もしあなたやあなたの大切な人が退去強制の危機に直面しているのであれば、諦める前に、まずは専門家の扉を叩いてみてください。その一歩が、未来を大きく変えるきっかけになるかもしれません。
みなとまち行政書士事務所のビザ取得サポートサービス
みなとまち行政書士事務所は、コンサルティングから書類作成はもちろん、入国管理局への申請までサポートさせていただきます。
サービス内容
- ビザ(在留資格)取得に関するコンサルティング
- 入国管理局へ提出する書類の収集
- 入国管理局へ提出する書類の作成
- 入国管理局へ申請
- 結果受領に至るまでのサポート
費用
サポートの流れ
-
1.お問い合わせ
電話(06-4305-7395)や、お問合せフォーム(こちら)からお問い合わせください。
些細なことでもお気軽にお尋ねください。
ビザ取得の可能性が極端に低い場合などは理由をご説明します。 -
2.面接 / 見積
ご依頼を検討いただける場合、資料などを拝見し、更に細かくお話をお聞きさせていただくべく面談をさせていただきます。
また、費用やサポート内容についてもご説明させていただきます。 -
3.ご依頼の確定
サポート内容や費用等の条件にご納得いただければ、ご依頼を確定することを申し付けください。
着手金をお支払いいただきまして、正式なご依頼とさせていただきます。 -
4.書類の収集・作成
メール等でヒアリングをさせていただきながら、当事務所が作成または取得できる書類は代行して手配いたします。
お客様で準備、作成していただく必要がある書類はご協力をしていただきます。 -
5.申請
入国管理局へ申請します。申請後は速やかに申請日と受理番号をお知らせします。
後日、入国管理局から追加資料や事情説明などが求められる場合がありますが、その際はご連絡の上で速やかに対応します。
審査の進捗状況なども適宜確認、ご報告いたします。 -
6.残金のご入金
申請のタイミングで残りの費用をお支払いいただきます。
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6.許可・不許可の連絡
入国管理局から許可通知が届き次第、ご連絡いたします。
同時にビザ受領に必要な証印手続きの準備を行い入国管理局に出頭します。
ビザの受領が終わり次第お客様にお渡しします。
この記事を監修した人
みなとまち行政書士事務所の可児(かに)と申します。
定型的な業務以外にもできる限り対応させていただいております。
お困り事がありましたらお気軽にお問い合わせ下さい。
経歴紹介
理工系の学部卒業
機械製造メーカーに就職 金型の設計部門に配属
2年半後に、父親の経営する自動車部品メーカーに転職
製造設備のオペレーター、品質管理の責任者を経て代表取締役に就任(39歳のとき)
事業会社を売却、代表取締役退任
行政書士事務所開業、現在に至る